かりんとうを並べる。

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【小説】アルバム

 新居に移ってから1週間がたった頃、健二が私のアルバムを発掘してきたようで、みせてくれとせがまれた。私も久々に懐かしくなり、折角なので二人で夕食後にみることにした。

 1ページ目は、私が赤ちゃんの頃の写真。産まれたての写真から、ハイハイしている写真、両親や親戚に抱っこされている写真など。
「おお、美雪この頃からやっぱかわいいね。」
「こんなちっちゃいころじゃ誰だっておんなじようなもんでしょ。調子いいこと言ってないで次行こう、次。」
 次は幼稚園入学頃。青いスモックをきて園児が並んでいる集合写真がある。
「まって、どこに美雪がいるか当てるから、答え言わないで!」 
「はいはい。多分無理だと思うけど。」
「えーっとね、、、髪は結んでないよね?」
「残念、結んでます。」
「うそ!え、じゃあね、真ん中から右にいる?」
「どうだか。」
「よっしゃわかった、この子でしょ!」
「はい残念、違います。」
などという会話をしつつ、気づけば小学生の頃の写真をみていた。
「これってピアノの発表会とか?美雪ピアノ弾けたっけ?」
「本当にちょっとだけやってたんだよ。すぐ辞めちゃったから今はかえるのうたくらいしか弾けないけど。」
「そうだったの。しらなかったな、今度弾いてもらおっと。」
「え、嫌。」
「そういわずにさあ、いつか絶対きくからね。」
 アルバムはどのページも几帳面に整理されており、たまに写真の状況を説明する短い文が可愛いペンで書き込まれている。
 ふとページをめくる手が止まる。アルバムは小学校高学年頃にさしかかっていた。無意識のうちに指が小刻みに震えて、冷たい汗が流れた。急な動機がする。健二は気づいていないようで、足をパタパタさせたりなんかしている。ややぎこちなく、ページをめくった。
 中学生頃の写真。制服を着て、3人の女の子が校舎前でへんてこなポーズをとっている。私はこの制服に見覚えがなかった。
 「、、、美雪?」
心配そうに私を覗き込む健二、健二の大きな瞳から目を離せない。離したくない。心臓の音が聞こえる。手足が震える。
 「こ、、、このアルバム、、だれのアルバム?」
自分の声が聞こえた。健二はゆっくりアルバムをもう一度はじめからめくった。
 赤ちゃん、幼稚園、小学生、中学生、高校生、大学生、社会人、、、。どれも笑顔で幸せそうな写真ばかりだ。
 でもどれも私ではない。最後のページでは、見ず知らずの若い女が、ウエディングドレスをきて微笑んでいた。色白で優しそうな女性だ。
 健二、そう呼んで腕を掴もうとしても、そこに健二はいなかった。その部屋には代わりに犬がいた。小型のもふもふした白い犬。犬は私の膝の上にのって尻尾を振ってきた。私はその犬を殴ってから、すっかり日が落ちたまちへ出かけた。