かりんとうを並べる。

たまに更新です。

茶碗

※この記事は、下書きに暫く眠っていたところを読み返したら、ん?これ、まあまあいけるんじゃね?と思い加筆修正したものです。一回ボツにしているものです…。

 

茶碗を母に割られて大泣きした記憶がある。ここでは記憶というよりは思い出とした方がいいのかもしれないが、私は思い出というものは無価値だと思っているから、これは記憶である。

私は茶碗になりたい。

1日3回、手のひらとふかふかお米にはさまれたい。

最近は気がつくと自分が茶碗になることばかり考えている。そもそも茶碗になるとはどういうことなのか。茶碗の定義とはなんなのか。お米をよそえることができれば茶碗なのか。

お米をよそえること。ならば話は簡単だ。私が全裸になって、腹の上に白米を乗せてもらえばいいのだから。

 

そういうわけで私はSMクラブに来た。

私にはこんなこと頼める友人はおらず、、、今ちょっと見栄を張ったのだがそもそも友人が少ない。デリヘルは女子には呼びにくいし同年代の子が来たら緊張しそうだ。ちょっとした変人にも引かない落ち着きのある人間が多そうなところ。炊飯器と米二合を持参して行った。

結果、仰向けになったお腹の上に白米を乗せてもらうことができた。白米はやんわりと熱くて湿っていた。湯気がきらきらしていた。最高だ。お茶碗は毎日3回こんな気持ちでいるのか。羨ましすぎる。最後に梅干しをぽつんとお米の真ん中に乗せてもらった。幸せだ。

私は舞い上がって、女王さまと呼ぶには幼い女の子に聞いた。私、茶碗にみえますかね?女の子はいう。うん、すてきなお茶碗だよ。ほんとうにすてきで…変態だね。茶碗になれてうれしい?女の子は優しく私の頬を撫でたが、その手はとても冷たかった。変態だね?私はいま変態なのか?腹の上に米を乗せて変態ということは、茶碗には成っていないのではないか。変態だと思われることにはなんの快楽も得ることができない。女の子はそれで私が喜ぶと思っていたのか、私が押し黙っているので怪訝な顔をしている。だめだ、せっかく腹に米を乗せているのに。こんな細かいことはどうでもいいじゃないか。とにかくいまはこのほかほか感を味わって、女の子の食卓の一部になろう。

結局そのあと女の子に腹の上の米を少し食べてもらい茶碗目線を堪能したところで、お風呂で食器用洗剤と台所用スポンジで体を洗ってもらってから帰宅した。帰り際、女の子が、今度はもっと激しいことしましょうね。お茶漬けプレイとか!?といった。おお茶漬けプレイ!?まてよ、私の体は寝そべると平たい。果たしてお茶漬けを私の体の上で作ることはできるのか?お茶漬けをよそえないものは、茶碗と呼べるのか?お茶漬けをすこしでも零してしまったら、それは、茶碗失格だろう。この女の子はなんて恐ろしいことを私に突きつけたのだ。気づくと私は手を振って彼女を見送っており、顔には薄ら笑いが浮かんでいた。彼女はもういなかった。

茶碗の条件リスト。1、お米をよそえる。2、お茶漬けをよそえる。3、毎日の食卓に不可欠な存在。4、落としたら割れる…私は割れない。ここで安い物語なら私は自分が割れるか試して割れなくて、ビルの屋上からなら割れるかなとか言って身を投げるのだろう。そんな陳腐なことはしない。安い創作ドラマはすぐ簡単に人を殺したがる。簡単に人を消したり祈りを捧げたり、そういう薄っぺらな物語は嫌いだから、私はここで死んだりしない。割れたら茶碗である証明になる?そもそも割れたらただの陶器の破片になって、米はよそえなくなって、それは最早茶碗ではないだろ。

私はバレエ学校に入学した。茶碗の形に近づくには体の柔らかさが不可欠だし、白いバレエスカートは茶碗を彷彿とさせたから。しかし他の学生とは目指すものが根本的に違い、中退を決めた。その頃には体は十分に柔らかくなっていたが、茶碗と呼ぶには程遠い見てくれだった。

私は旅先の国で乗った船の上で、水面に映った月を茶碗で掬おうとして河へひっくり返り、深くまで沈み、浮かんでくることが出来なかった。人間も陶器も土に帰るんだろ。そうしたら、両方おんなじようなものだろ。

 

「……ええー、こちら国宝の骨粉天目茶碗でございます。こちらは表面の模様が骨を砕いて土に混ぜ、焼いたように見えることでこの名前がついております。正式な製作者、製作方法、年代などは明らかになっておりませんが、雪が降ったかのような美しい細工、不恰好とも言えるかのような、しかし人を惑わせる歪みのある見事なフォルムなどから、XXXX年、国宝に制定されました。こちらの茶碗には長い年月語り継がれてきた言い伝えがありまして………」

 

茶碗を母に割られて大泣きした。これは家族と初めて行った美術館で、ねだって買ってもらったなんかいい茶碗のレプリカだったのに。なんとなくおどろおどろしい見てくれだからこれでご飯を食べたことはなかったけど、たまに奥から出しては乾いたふきんで磨いていた。一ヶ月機嫌を悪くしていたら母が金継ぎをしていそいそと持ってきた。とても愛らしい茶碗だ。金が似合っている。主食はたまに米、基本流動食みたいなやつ。昔の野蛮人はこれで食を楽しんでいたとか。最高のフォルムだ。明日はこれを髪飾りにして学校へ行こうかな。

 

 

END